『さて。ばらしてみっか!』です。
※マシンの販売だけでなく、カウリング補修/ブラスト処理も承ります。
前回までのあらすじ
全てバラしたエンジンを組み上げ、新たに水温計を取り付ける事に。『自分で取り付けます』と申し出たHさんがしばらくして私に言った言葉は
「ハツミさん、大変な事が起きました」でした。
その姿はまるで青いゴリラ。
見つからないボルト
『すみません。ボルトをシリンダーのところに落としてちゃって・・・どこ探しても見つかりません・・・』
そのボルトとは、
この写真ペン先の Φ3x5mm程のステンレスのボルト です
私:『え?まじで?取り急ぎエアブローしてみようよ!』
っと言うことでHさんにダンプラの36板(900mmx1800mm)を持ってもらい、あらゆるところをライトを照らしエアブローしながら確認します。
飛ばされて出てくればダンプラ版に当たって落ちます・・・が何も出てきません・・・
出てくるのは固着していたグリスやオイルの塊・・・踏んで床が汚れちゃった~(泣)
『おかしいなぁ・・・』フロントシリンダー後方にあるドレンパイプも塞いであります・・・
しかし・・・実はこのペン先に見えるパイプが犯行現場なんです。
念のためHさんに聞いてみます。
私:『ごめんねHさん。この穴って・・・いつテープで塞ぎました??』
小さな部品を付けたり外したりするときは、その周辺の穴や隙間は必ず塞がなくてはならないんです。よくピストン交換作業などでピストンピンのCリング(ストッパー)をクランクケースの中に落としちゃったりするんです。
そうなると、もう8割方クランクケースを開けないとならないので、細心の注意を払います。
ピストンの場合
赤矢印がピストンピンです。
コンロッドとピストンを接合する部分です。
その両端にCリングを入れるんです。(ピストンにはCリング用の溝があります)
青い矢印がCクリップ、緑の矢印がCクリップ用の溝です。(これはRZ250用のピストンです)
良く落とすのがこの黄色の矢印の場所(クランクケースの中)です。
注意しておいたのに…
私も以前やっちゃった経験から常々注意しており、Hさんにも伝えてありました。
が、Hさん『さっきボルト落としてから危ないと思って塞ぎました』
私:『・・・・・・・・・まじ??・・・』
私:『え?じゃあ絶対この中だよ!』
Hさん:『いやあ、この小さな穴にですかぁ?』と半信半疑・・・
この時の私の心の声『野ゴリ~!!もうここしかないの。残ってる場所!!』
この時の私の心の中(笑)
シミュレーションしてみる
私:『最初塞いでなかったんでしょ?こんだけエアブローして出てこないんだから、ほぼ間違いないよ。じゃあ1回シミュレーションしてみようよ!』
っと同じ大きさと思われるボルトをHさんに用意してもらい(私は現物を見ていなかったので)
水温計接地付近(ラジエターパイプ途中)から落としてもらいます。
すると。なんと1回目のトライで、『カチン!』っと音をたてそのパイプに当たったのです(笑)
私:『ほら~! やっぱりそうじゃん! とりあえずまだオイルも入れていないからマグネトーロータ側のカバーとマグネトーロータを外してみよう』
このときHさん呆然・・・
っということで、マグネトーロータ側のカバーとマグネトーロータを外し、ファイバースコープを使って確認したのですが、見つかりません・・・
かれこれ騒動が始まってから3時間・・・こういう時って時間がたつの早いんですよね・・・
幸いこのパイプは、カムチェーンが通っているところに付いているので、シリンダー内に入るということはありません。最終到着地点とすればクランクケース内最下部です。
『Hさん。ちょっと待っててね。少し休んで座ってて。もう一回調べるから。
ただ、出てこなかったら。またもう1回全バラだからね。』
っと伝えるとHさん。ガクンと項垂れてしまいました。
その気持ちわかりますよ!(笑)
私も気を取り直し、ファイバースコープ、ハズキルーペ(これが無いと見えないんです・・・)
ファイバースコープには先端にアタッチメント(細い針金の先端がUの字に曲がったもの)を取り付けられるので、見つかりさえすればそれで捕まえられます。
ミニライトも使用し上から1箇所ずつ潰し込んでいきます。
あった!
すると・・・約一時間後です。ようやく見つかりました。
カムチェーンガイドの下端に引っかかっていました。赤で囲んだ部分です。
こういうのって意外とわからないもんですね・・・(笑)
『あった!』とHさんに見てもらうと『はぁぁぁぁ・・・・』っと
その場にへたり込んでしまいました(笑)
Hさん:『ホントありがとうございます!変な汗が出ました・・・・』っと(笑)
幸いにもクランクケース内の穴から更に下に落ちることはなかったようです。
ピンセットを使用し回収完了です。
私:『ね。有ったものは必ず出てくるから大丈夫。でも次から絶対注意してね。
必ず周辺の穴は最初から塞ぐこと。下手すりゃもう1回全バラだったんだから・・・』
Hさん:『もう絶対やらないです!!』
ま、身に染みたでしょう。でもこういう経験が後々役に立つんです。
百聞は一見に如かず、百見は一触に如かず(造語です)
4時間ロスしたけど
さ、4時間のロスですが頑張りましょう!!
外した部品を付けて・・・と
エンジン始動テスト。緊張の一瞬です。
セルを回すこと数回でエンジンスタート。
画面の下部に見える水垂れは冷却水のエア抜きをしているためです。
メタルを替えたばかりなので回転は上げられませんが、異音は全くありません。
メカノイズ(特にタペット音)は聞こえますが、これは想定内。
『良し!OKだ!!』っと二人でハイタッチ!!
そして各部ボルトの再チェック、マーキングをして外装部品を取付て・・・と。
2月4日 ようやく完成です!!
なんとか間に合った・・・長かった・・・
マジ疲れた・・・ホント疲れた・・・
とはいえHさんの安心した顔を見て、心の中ではホント嬉しかったです!!
Fさんにも連絡したら自分の事のように喜んでくれました。
Hさんとは、ゴリラ兄弟(ホントの兄弟ではないです)の兄なんですが、
イカツイ顔してるのに、ホント優しい人なんです。
世話焼きのお人好し・・・そんな性格なんで仕事上でババ引かされることがよくあります・・・
さあ、これで筑波選手権の第1戦には間に合います。
あとは練習走行次第。
しかしここでHさんにバナナで釘を刺しておきます(ゴリラだけに・・・)
『メタルを替えたんだから、ちゃんと慣らしをしないと絶対駄目ですよ!!』
マシントラブルの原因
今回のマシントラブル(コンロッドメタル焼き付き)の原因は、
この場所がSVのオイル流路の最先端に位置するため、エンジンオイルに関する場所であったことは間違いありません。
しかしながら、全バラした結果オイルポンプ、オイジェットに等にも異常が無いことで、あくまでも推測にすぎませんが、
①オイルストレーナーのフィルターの詰まり
(全バラ確認時にかなりの詰まりあり)
②そもそものオイル量が足りていなかった。
原因は推測ではいくつか考えられます。
(全バラ時には残オイル量は計測していないのであくまでも推論)
①についてはクランクケースをOHしないと掃除はできません。
ただ、②については、自分でオイル交換をされる方は十分注意してください。
車体の傾き具合、前後ホイルの位置関係によって、オイルの抜け量は変化します。
また、オイル量の確認(確認窓、レベルゲージの見え方)も同様です。
私は今回SVのクランクケースを開けておりますので、オーバーホール時の規定量2.7ℓのオイルを注油しています。
今年の選手権第1戦前に1度オイル交換を実施していますが、抜き出た分を計量し、その分を注油しました。
(サービスマニュアルにはオイル交換時2.3ℓと記載がありますが2.0ℓしか抜けませんでした)
この管理を続けて行けば、今後SVのオイル量の過少を心配することは無くなります。
オイルストレーナーのフィルターの件も考えると、やはり1シーズン終了時には全バラのOHを実施していきたいと考えております。
あ~ホント疲れた・・・腰痛い・・・目がショボショボ・・・肩が上がらん・・・
治療編完了